写真から風景画を作る方法の一つ

2013年1月22日火曜日

Tips 背景・風景

■完成イメージ




■作業概要 

1.写真を距離別にエリア分けする
2.『明るさの中間値』フィルターをかける
3.彩度をメインにした色調整をする
4.アナログ感をつくる

■留意事項

作例は[2592pix×1936pix]のサイズで作業を行っています。
説明中にボカシサイズ等の具体値が出てきますが、素材のサイズが事なればボカシサイズ等も変わってきますので、もしご自身で作業を行う際は適当な数値に置き換えて作業を行ってください。

■はじめに

イラストと写真の差というのはそれこそ非常にたくさんの要素があると思いますが、今回は『画像の劣化』と『色調整』という点に注目して加工してみました。
作業時間としては1時間~2時間くらいだと思います。

完成結果の目標としては、アニメやギャルゲー等の背景画に使われるような品質のものを目指します。

■『画像の劣化』について

アニメ等で使われている背景画像と写真を見比べると、写真の方が情報量が多い事がわかります。

ここで言う情報量とは色の階調やディティールの事です。

例えば写真の木に注目してみます。
葉の一枚一枚まで丁寧に表現されています。
対して、アニメ等で描かれている風景画の方はポイントでは一枚一枚の葉を表現してありますが、写真みたいに馬鹿丁寧に表現されてはいません。

遠距離のものに至ってはディティールは描かず、シルエットだけだったりします。

まずはこの辺の『人間の手で生みだされるものに似つかわしくないディティールの削除』から行おうと思います。

Photoshopのフィルターの中に『明るさの中間値』というフィルターがあります。
(『フィルター』→『ノイズ』→『明るさの中間値』)


このフィルターは設定した半径の値にしたがって色を平均化してくれるものです。

本来は細かいノイズを目立たなくさせる為のものなので半径の値は余り大きくとりません。(1~3pxくらい)

でも今回の場合、目的はノイズを取る事ではないのである程度大きめの数字を使います。

試しに半径15pxでかけてみます。


いかがでしょう?
細かいディティールが無くなり、ベタ塗り感あふれる結果になったと感じてもらえるのではないでしょうか。

これが今回で言うところの『画像の劣化』です。
不要なディティールを取り除く作業を指します。

しかし、当然ながらこれではダメです。

遠景や空・雲は良い感じになったとしても、ディティールが残って欲しい手前の風景も荒くなっています。

そこで、距離に応じてフィルターの値を変えることにします。

では、上記作業を破棄し、実際の作業手順に移ります。

■写真をエリア別に分ける

写真を4枚複製します。
其々の名前を『空』『遠距離』『中距離』『近距離』にします。

念のためオリジナルの写真は『オリジナル』という名前にして保持しておき、非表示にしておきます。

『空』を一番下にして、『近距離』を一番上にします。


■エリア分けする 

全てのレイヤーにレイヤーマスクを追加します。
(レイヤーパレットの下にある『レイヤーマスクを追加』ボタンを押して作ります。)


各々のレイヤーを選択し、投げ縄ツールでそれなりにざっくりとエリア分けします。

不要な部分は削除するのではなく、レイヤーマスクを使って隠します。(ここチョットしたポイントです。)

※エリアの境界はある程度ざっくりと分けてしまって問題ない場合が多いと思いますが、疲れない程度に細かく切り抜いても良いと思います。

『空』はエリア分け不要です。(他のレイヤーで空以外の部分が目隠しされるため)

僕の場合、このぐらいざっくりと分けました。
[遠距離]


[中距離]


[近距離]


■フィルターをかける

各々のレイヤーに『明るさの中間値』フィルターをかけます。
距離に応じて半径の値を変えてください。

作例の場合は
空 8px
遠距離 10px
中距離 5px
近距離 2px

数値は忘れないようにレイヤー名に残しておきます


基本的に遠い程フィルターの値は大きくしますが、注目させたいエリアが中距離だった場合は中距離の値が一番小さくなったります。
ケースバイケースで調節してください。

また、空は8pxとなってます。
これは間違いではなく、意図して8pxにしました。

距離の観点から言うと、ほとんどの場合において空は一番距離が遠い要素となりますので、フィルターの値も一番大きくするのが正しいように感じます。

しかし、空は地上なんかと比べるとスケール感が全く違います。また、他のエリアと連続性を持っていない事がほとんどです。

つまり別モノです。

それに、いろんな風景画を見ていると、空や雲の描写が細かく描かれているとリアル感がなくなり、イラストっぽく見せる事が出来る重要な要素なのではないかと感じているためでもあります。

とはいっても、この辺も個人の感覚です。フィルターをかけるのに掛かる時間は一瞬なので、何パターンか試して好みの値にすればいいと思います。

■レイヤーマスクをぼかす

其々のレイヤーマスクをぼかします。
これはぼかすことによってエリアの境界があいまいになり、より自然に見えるようにするためです。

素材や分け方によっては気にならないかもしれないので、気にならないようでしたら行わなくても良いと思います。
作例の場合は50pxでぼかしました。

[近距離のレイヤーマスク]


レイヤーマスクをぼかす際にはレイヤーとレイヤーマスクのリンクを外してから行ってください。
リンクを付けたままだと画像の方もぼけてしまいます。


以上で基本的な画像劣化の工程は終わりです。
ディティールがつぶれたことで、だいぶ写真っぽさは無くなったのではないかと思います。(遠距離は特に)


といってもまだまだ写真くささはあります。
でもとりあえず画像の劣化作業はひとまずおいておいて、次に色の調整を行います。

■彩度を上げる

実際のところ、好みやケースによって変わってくるのですが、プロの作品(写真、絵共に)や目に飛び込んできやすい作品というのは彩度が高めのものが多いと思います。
程度の差はあれど色味の調整は試してみる価値があると思います。

というわけで、写真の彩度を上げる工程を行います。

レイヤー群の一番上に『色相・彩度』調整レイヤーを一つ作り、彩度の値を50%にします。


50%に意味はありません。
とりあえず、方向性を見る為だけのあたりです。

いかがでしょうか?写真からイラストよりになってきた気がしませんか?


ここからさらに値の調節をしてもいいのですが、その前に空の彩度だけさらに上げてみてください。(空レイヤーの上に『色相・彩度』調整レイヤーを置いてください)
値は50%でOKです。


ついでにレイヤー名に『彩度上げ』と名前を追加しました。

どうでしょう?
空の彩度が上がりさらにイラストっぽくなってきた気がしませんか?


近景はほぼ写真のディティールが生きているのでイマイチかもしれませんが、遠景を見るとかなりそれっぽくなっていると思います。
少なくとも僕はそう判断しました。

ただ、赤色や黄色が主張してきて夕焼け感が出てきてしまいました。
これはこの写真素材だから起こったイレギュラーな事態です。

といっても、色の調整は最後で行えるので、今は無視して流れ作業の部分を進めていきます。

次に空気感の誇張を行います。

■空気遠近法の誇張

空気遠近法という技法があります。
地上は空気で満たされており、空気によって光が屈折吸収拡散し、目に映る色は実際の色と異なるというものです。

早い話が、遠くのものほど白っぽくなるというものです。

実際には時間帯や天候、地域等の差により白以外の色を使った方が良い結果になるかもしれませんが、いちいちそんな事を考えるのはめんどくさいのでとりあえず流れ作業手順として白で進めていきます。

気に入らなければ後で直せばいいです。

では具体的な作業に入ります。

『中距離』レイヤーの上に真っ白で塗りつぶしたレイヤーを作成します。
レイヤー名は『空気遠近法』とでもしておきます。

そして合成方法は『ソフトライト』です。
なぜ『ソフトライト』を使うかというと・・・理屈ではないです。
色々試した結果、『ソフトライト』がそれっぽくなったのです。
もっと理にかなった良い方法があるかもしれません。
もしあれば教えていただきたいです。




ところが、このままだと空にも影響が出て白くなりすぎているのでいるので、空部分を除外します。
[ctrl]+[shift]を押しながら『遠距離』のレイヤーマスクサムネールをクリック。続けて『中距離』のレイヤーマスクサムネールをクリックします。


これで『遠距離』と『中距離』の範囲を合成する事が出来ました。

そしてそのままレイヤーパレットの下にある『レイヤーマスクを追加』ボタンを押し、レイヤーマスクを作成します。


空の範囲の色が元に戻りました。


このままでもいいのですが、せっかく『中距離』『遠距離』とエリア分けもしてあるので、『遠距離』にはさらに白っぽくなってもらいます。
手順は同じです。
『遠距離』の上に白いレイヤーを追加し、『ソフトライト』合成します。

先ほどは『中距離』と『遠距離』のレイヤーマスクを使って範囲選択しましたが、今回は『遠距離』のレイヤーマスクだけを使って範囲を作ります。
結果を見てみると、チョットやりすぎかなと思ったので透明度を[50%]にしています。




この辺は写真素材によって値を調整する必要があると思います。

ここで終わらせてもいいのですが、もう少し誇張を入れておきます。
遠方が白くなるということは彩度が落ちるということです。
そこで、遠距離の彩度を落とします。

『遠距離』レイヤーの上に『色相・彩度』調整レイヤーを作ります。レイヤーマスクも遠距離用の範囲で追加しておきます。

彩度を-50にします。

この工程により、手前にあるものがより浮き出て見え、距離感を誇張する事が出来たと思います。(向かって右側の家はかなり浮き上がって見えるようになりました。)


ここまでがどの写真でも行う流れ作業行程です。
ここまでの作業は深く考える必要に無い作業なので、多分15分もあれば出来ると思います。

では、作業を続けます。

■手描き感を出す

遠景はそこそこ良い感じになりましたが、近景はまだまだ写真くささが残っています。
そこで、ディティールの削除と筆ムラ(ストローク)の追加することで写真くささを無くします。

使うツールは混合ブラシツールです。


ブラシの種類は[ナチュラルブラシ]に入っている[スプレー]です。
(僕は[33 pixel]を好んで使っています)

パラメーターは以下の通りですが、にじみ等は必要に応じて調整した方がやりやすいかもしれません。


では、このツールを使い、ディティールを残しつつ、不要なディティールを潰していきます。
ここからはマシンスペックによって手順が少し変わります。
  • ハイスペックなマシンの方は一番上にレイヤーを作ってその上で作業を行ってください。
  • ロースペックなマシンの方は今までのレイヤーを結合してから作業を行います。
  • さらにロースペックな場合は結合した上に解像度を半分にして作業したほうが良いと思います。
僕のノーパソは超ロースペックなので解像度を半分にして作業を行いました。

そしてこれが作業結果です。


一つ一つ説明しているときりがないので大まかに説明します。
上の絵を見比べながら以下の箇所を確認してみてください。

●近景の道

混合ブラシを使い、横方向のストロークでなぞりました。
アナログ感を残すために筆ムラは残すようにしました。

電柱の影はだんだんと薄くなるようにしました。
写真を見ると実際には濃いままなのですが、『もし自分が電柱の影をゼロから描いたとしたら、長い距離の影を描くことに不安を覚え、遠くになるに従って消してしまうだろう』と考えたからです。

自分のダメなところも入れていくことでより自分のスタイルに合った背景になると思っています。

●近景の柵

混合ブラシを使い、縦方向のストロークでなぞりました。

また、『もし仮に自分が柵をゼロから描くとしたら立体感を出したくなってハイライトを入れるであろう』という考えから白でハイライトを加筆。その後混合ブラシツールでなじませました。

僕みたいな下手な人間が加筆を行うと絵の質を落とすことになる可能性が高いですが、この部分も含め『アナログ感』だと考えているので気にせずに加筆を行い、絵をダメにしていきます。

●近景の柵の間から見える緑

ここも混合ブラシツールでディティールを取り除いてもいいのですが、めんどくさかったので、多角形選択ツールを使い柵の間を範囲選択し、明るさの中間値フィルターで劣化させました。

その後、混合ブラシツールを使い、適当になでています。

●近景の柵の下にある草

フィルターを使った流れ作業で単なる色の塊になってしまった部分があるので、ブラシで草を加筆しました。

●近景左のブロック塀

選挙のポスターがべたべたと貼ってあったので、ブラシや混合ブラシツールを使って消しました。

縦方向のストロークで汚れが残るようにしてあります。

●近景の電柱

混合ブラシツールを使い、電柱に沿ってなでています。

電柱に貼ってある『文』は加筆しています。
(手で描いたとしたら間違いなく文の文字は書くと思うので)

電線は混合ブラシツールで軽くなぞった後、あえてブラシツールで加筆しています。
手描き感を出そうと思いました。

覆い焼きツールを使い電柱の一部をなぞり、ハイライトを強調しました。
理由はありません。感覚です。

●中距離・遠距離の家々

フィルターを使った流れ作業で、窓などの形が丸くなってしまったものもあるので、ブラシツールを使って加筆。
その他にもディティールが甘くなっている個所を直しましたが、疲れるので全て直してはいません。気が向いた個所だけです。

車も混合ブラシツールを使い細かい質感を消していますが、アナログ感の演出という意味において、あまり効果がなかった気がします。

●向かって右側の家周辺

混合ブラシツールでブロック塀を撫でています。

草木を加筆しています。
遠くにあるものなので、ディティールアップしなくてもいいとは思ったのですが、自分でゼロから描いた時にはもっとディティールを描くだろうと考え、ブラシツールで適当に葉(らしきもの)を描いています。

左側の家と同様にディティールアップをしてあります。

屋根の上から見えていた鉄塔は空の邪魔をするように感じたので消しました。

●空

混合ブラシツールのブラシサイズを大きくして横方向のストロークを加えています。
雲もなぞり、流れを出すとの同時に筆ムラを作っています。

以上、大まかな説明でした。

この部分は個人の感覚で好きなようにいじっていけばいいと思います。
そして、この作業が一番時間がかかるところだと思います。
といっても、1時間くらいです。

以上で写真からイラスト化への手順は終了です。

しかし、前述したように流れ作業の途中で赤味が強調され、夕焼け感が出てしまったので、最後にこの部分を調整します。

■最終的な色調整

夕焼け感を取りたいので画像から赤味を取除きます。
レイヤーの一番上に『色相・彩度』調整レイヤーを作ります。
そして『レッド系』の彩度を0にします。



基本的にはこれでいいのですが、自分のイメージから少し外れた感じがするので他の色(イエロー系とグリーン系)も調整します。
 



色味はこのぐらいで良いと思いましたが、全体的な彩度が落ちてしまってイラスト感が乏しくなった感じがします。
そこで、さらにレイヤーの一番上に『色相・彩度』調整レイヤーを作り彩度を+50してみました。




緑が映えて良い感じです。
ただ、空はやりすぎに感じます。

そこで、空を除いたレイヤーマスクを作ります。([ctrl]+[shift]を押しながら『遠距離』『中距離』『近距離』のレイヤーマスクサムネールを順次クリックします。)




だいぶ良くなりましたが、黄色がきついような気がします。
そこでさらに自分が気に入る様に調整を行います。

個別の色系を調節すると他の色系が気になったりするので、行ったり来たりしながら調整します。最終的には『マスター』『イエロー系』『グリーン系』を調整しました。








人によっては『緑色が強すぎる』やもっと細かく『右側の家の壁に少し赤味を入れた方が良い』等思う人がいるかもしれません。
それはそれで良いと思います。

色の調整はPhotoshopの十八番なので、レイヤーマスクや調整レイヤーなどを使っていくらでも好きなように弄ってもらえればいいと思います。

■上方向へのパースを無くす

電柱を見るとわかりますが、斜めに傾いています。
これは電柱が傾いているわけではなく、上方向へパースが付いている為、傾いて見えます。

通常の風景画ではこのぐらいのアングルで上方向へのパースを付けて描いたりたりはしないと思うので、自由変形ツールでゆがみを修正します。


以上で写真を絵っぽいものにするための手順は終了です。

これがベストな方法だとは思っていません。
数ある手法の中の一つだと思います。

まだ数枚しか試していないので他の写真素材ではうまくいかない事も考えられます。
まだまだ発展途上の手法です。

よりスマートな手法を確立した際はまた記事にしてみようと思います。

■写真素材について

多分どんな写真素材でもそこそこの仕上がりになると思いますが、人が映っているものは風景画っぽくなりにくいと思います。
理由は簡単。
普通、風景画に人物は入っていないからです。

そういう場合はイラスト加工する前にPhotoshopの機能を駆使して人物を消しておくと良いと思います。

また、色の階調が少ないものは加工しにくいと思います。
例えば『夜に撮られたもの』や『露出オーバーでハレーションを起こしてしまっているもの』などです。

■最後に・・・

色々と書いてきましたが、いくらソフトの機能を使ってそれっぽいモノが作れるようになっても結局は『うまい人が描く風景画には色々な意味で敵わない』と思っています。やれやれです。


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